春天的游戏原名:春の戯れ,
明治の初めのことである。品川の居酒屋入船屋の金蔵のせがれ正吉は、知らない外国を夢にえがいて、その文明の国をこの目で見たかった。とくに横浜のイギリス波止場にノルマンジャ号が来たのを見てからというもの、呆然と、かけ離れた文明の国への憧れに胸をおどらすのだった。ある日入船屋へ、ノルマンジャ号の日本人の乗組員が水夫長とともにどやどやとやって来て酒を飲んだ。ニューヨークの話、シンガポールの話、バナナの話、それらは日ごろの正吉の夢に拍車をかけた。水夫長は正吉の耳に「外国へ行きたかったらノルマンジャ号の乗り組みにしてやるから、出港までに尋ねてこいよ」とささやくのだった。正吉はいてもたってもいられなかった。しかし正吉には好きなお花がいた。お花は今年十九の娘ざかり、小さい時から正吉の遊び相手で、正吉をしんから好きだった。正吉はお花の気持ちをよく知っていた。だがそれより...