浮雲
タイトルに騙されてはいけない。これは徹底してダークな大人の童話である。クモスケという何を考えているかさっぱり判らない男が主人公なのだが、この徹底的な虚無性がピンク映画的変態家族ものに融合し、とんでもない畸形性を帯びてゆく。ぬけぬけと挿入される浮雲が、クモスケの浮遊性を象徴しているのかもしれない。クモスケは結婚した元カノの家に転がり込むのだが、そこには寝たきりの妹がいて、夫は連続婦女殺人の容疑者そっくりの風貌なのである。クモスケが買った片目の売春婦が妹の中学の後輩だと知れ、二人はクモスケの眼前で妖しい遊戯へとふけっていく。中学の歴史の授業の記憶が鎧武者のイマージュを呼び寄せる描写が圧巻である。この畸形性は長谷部大輔の人間の裏面への探求とその形象化への情熱から来ているが、これだけの個性が今後どのように伸びていくか、目が離せない。